ガスミュージアムブログ
東京の街~くらべる探検隊~ 第10回「錦絵で楽しむ開化東京の桜」
明治の東京の街には、文明開化を代表する場所や建物が多くの錦絵に描かれましたが、その作品には桜の花が彩りを添えていました。
今回は、ガスミュージアムで開催中の企画展「桜が彩る🌸東京風景」にあわせ、ひと足先に春を先取りして、錦絵に取り上げられた開化東京の名所の、現在の風景と桜の姿を探しに訪れてみました。
浅草寺
明治時代の浅草寺境内では、錦絵に描かれているように、境内各所で桜の花を見ることができましたが、戦災で大きな被害を受けたこともあり境内の風景は大きく変わりました。被害を受けた本堂は、昭和33年(1958)にコンクリート造りの建屋として再建され、五重塔は昭和48年(1973)に鉄筋コンクリート造の高さ約48mの塔として、かつてあった本堂の西側から東側に場所を移して再建されています。
錦絵の中央には、宝蔵門がソメイヨシノと思われる桜の花とともに描かれていますが、昭和39年(1964)に再建された現在の宝蔵門のまわりには、しだれ桜が植えられています。
現在境内では、弁天山近くに植えられている十月桜が花を咲かせており、その姿を見ることができます。また錦絵に描かれた宝蔵門手前の仲見世脇の桜が咲く風景は、塔の位置こそ変わってはいますが、今でも春には桜の花に彩られた宝蔵門と五重塔の姿を見ることができます。
紙幣寮印刷局
錦絵に描かれているのが、トーマス・ウォートルス設計による煉瓦造り2階建ての建物で、大蔵省紙幣寮の印刷工場として明治9年(1876)に建設されました。
別名「朝陽閣」(ちょうようかく)とも呼ばれた建物で、建物前の敷地内には塀に沿って桜の木が見え、建物は桜と共に多くに錦絵に描かれました。
その後建屋は関東大震災で姿を消してしまい、昭和39年(1964)には情報通信関係の総合博物館となる「逓信総合博物館(ていぱーく)」が設置されました。現在は大手町地区の再開に伴い、この地区には平成30年(2018)に「大手町プレイス」が誕生し、日本郵政本社があります。煉瓦造りから高層ビルに建物は変わり、塀はありませんが、建物前の植栽には山桜が植えられています。
駿河町三井組
錦絵に描かれている洋風の建物が、明治7年(1874)建設の「為替バンク三井組」です。
建築は二代清水喜助が請け負い、洋風の建物の屋根には青銅製のシャチホコが設置されていました。建物入口付近の敷地内に桜が描かれており、漆喰の白い壁を背景に咲く桜の花は、名所風景に彩りを添えています。
錦絵に描かれた大通りに面した三越の建物は、現在は左が日本橋三越本店、右が三井本館に変わっています。その間に延びる通りの奥、西端には日本銀行があります。
この通りは「江戸桜通り」と呼ばれ、江戸時代の市川團十郎のお家芸であった「助六由縁江戸桜」にちなんで、平成17年(2005)に名づけられました。錦絵に描かれた建屋は、現在は三井本館の敷地の一部となっていますが、重要文化財に指定されているこの建屋を中心に、日本銀行前から東端の昭和通りまで東西に続く通り沿いには、約80本あまりのソメイヨシノが植えられています。春には歴史的な建築物を背景にして咲く、桜の花を楽しむことができます。
荒布橋(あらめばし)
錦絵は荒布橋附近より、日本橋川対岸の兜町の街並みを眺めた風景が描かれています。
日本橋川に架かる江戸橋を渡った先には、開化を代表する建物である、第一国立銀行や江戸橋郵便局の建屋を見ることができました。荒布橋は西堀留川が日本橋川に注ぐ場所に架けられており、西堀留川は舟運による物流の集積地であったため、人々の行き交う賑やかな様子が錦絵にも描かれています。橋際に植えられた桜は、開化を代表する建物や洋風石橋と共に描かれています。
西堀留川は関東大震災後の区画整理で埋め立てられてしまい、現在は橋のあった場所からは、日本橋川自体も見ることができません。しかし、かつての荒布橋近くにある小網町児童公園では、日本橋川とあわせて桜の木を見ることができます。
赤坂離宮
赤坂離宮の敷地は元紀州藩中屋敷が献上されたもので、明治6年(1873)に江戸城内の皇城が火災で焼失したことにより、赤坂仮皇居が設けられました。作品に描かれているのは正門で、その北側並びに通用門がありました。発行は明治17年(1884)2月のことですが、発行時期の季節にとらわれることなく満開のさくらが描かれており、開化風景に彩りを添えています。
現在この場所は赤坂御用地となっており、敷地北には迎賓館赤坂離宮があります。写真の赤坂離宮東門はかつての紀州藩中屋敷の通用門であったと言われ、藩邸の名残を今に伝えてくれています。
東門の前より赤坂見附に下る外堀通りの坂が紀伊国坂で、通りを挟んだ東側には弁慶濠を見ることができます。現在、坂の濠側の街路樹として桜が植えられており、春になると桜の花と共に赤坂離宮東門の風景を見ることができます。
靖国神社
戊辰戦争で亡くなった者を弔うため、明治2年(1869)に招魂社として建立され、明治12年(1879)に「靖国神社」と改称されました。錦絵に描かれている第二鳥居は、明治20年(1887)に建て替えられ、現在青銅製の鳥居では日本最大の大きさを誇っています。
境内には明治3年(1870)に桜が植えられはじめ、明治30年代には桜の名所として知られていました。現在、境内にはソメイヨシノや山桜など約500本の桜があります。昭和9年(1934)に建てられた神門の内側には、何本もの奉納された桜の他、「東京の桜の標準木」となるソメイヨシノがあり、毎年桜の開花時期にニュースで取り上げられています。標準木の芽の様子は、現在は写真のような状況です。
このほか境内には、桜にちなんだ品を販売するお店や、各都道府県の土を用いて製作された「さくら陶板」なども楽しむことができます。
今回紹介した場所は、まもなく訪れる春には、桜の花で彩られた風景を楽しむことが出来ます。まわりの状況が落ちつきましたら、ぜひその風景を楽しむため訪れてみてはいかがでしょうか?
くらべる探検隊4号:Y.T
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