ガスミュージアムブログ
ガス灯を探しに行こう! 第6回 新宿淀橋のガス灯
「ガス灯を探しに行こう!第6回」は、西新宿を訪れます。
西新宿一帯は、旧地名を「淀橋」といい、東京の街の発展と深い関わりがある場所なのです。その新宿副都心の一角、新宿中央公園の南側に隣接して建っている「新宿パークタワー」にあるガス灯が、今回、探しに行くガス灯です。明治時代からの淀橋の歴史も探訪しながら、モダンデザインでちょっとお洒落なガス灯について、ご紹介したいと思います。
公園の緑と、雁行したユニークなデザインの外観とのコントラストが美しい超高層ビル、新宿パークタワーは、「東京瓦斯(ガス)淀橋供給所」の跡地再開発として、平成6年(1994年)に完成しています。
前身の淀橋供給所は、明治43年(1910年)、発展する東京の西部地域のガス安定供給の拠点として開設されました。
供給所という名前の通り、ガスを作る製造所ではなく、ガスの供給を支えるための施設です。ガスを一時的に貯めておく「ガスホルダー」(タンク)を設け、刻々と変動するガスの需要に対応してガスの送出量をコントロールするのが供給所の役目。ガスの需要が少ない夜間などにガスをホルダーに蓄え、朝や夕方のピーク時には貯めていたガスを送出することで、ピーク時でも需要が少ない時でも、いつでも安定してガスが使えるようになります。供給所は、ガスのライフラインを支える、縁の下の力持ちなんですね。
ところで、淀橋といえば、日本初の近代水道として東京に上水を供給した「淀橋浄水場」があったことで有名です。淀橋浄水場は、明治31年(1898年)に竣工し、昭和40年(1965年)に廃止するまで、東京の市民に水を届けていました。
上水とガスという、近代都市のライフラインを担う大切な供給施設が、この淀橋に集約して設置され、明治後期から昭和40年代にかけて東京の街の発展を支えていたのですね。
昭和22年7月発行の『新宿区詳細図』を見ると、淀橋浄水場の幾多の大きな貯水槽が描かれているのがわかります。そして、その南側の隣接地に、「東京瓦斯淀橋変圧所」の表記と、丸いタンク2つがあるのが見てとれます。
浄水場が昭和40年(1965年)に廃止された後、跡地は、昭和35年(1960年)に決定された「新宿副都心計画」のもと、新しい街に変貌を遂げていくことになります。
1971年(昭和46年)にオープンした京王プラザホテルを皮切りに、超高層ビルの建設が始まり、平成3年(1991年)には、都庁が移転。その後も建設が続き、約30年かけて東京を代表する超高層の街になっていきます。
そして、この新宿副都心には、首都圏で初めて「地域冷暖房」が導入されました。
昭和40年代の東京都は、経済発展の代償として公害問題が深刻化していました。そのため、地域全体の冷暖房設備を集約してエネルギー供給を一本化し、クリーンな天然ガスを熱源として冷暖房に利用することで、街全体の省エネルギー性と環境性を実現させました。
この首都圏初の地域冷暖房の供給を担うプラントは、東京瓦斯淀橋供給所の敷地内に建設されました。昭和46年(1971年)6月、京王プラザホテルの開業に合わせて「新宿地域冷暖房センター」が竣工し、新宿副都心に建つビル群へ供給を始めます。
明治時代からガスの安定供給を担ってきた淀橋供給所は、昭和46年からは、冷暖房熱源の安定供給という、新たな役目も担っていくことになります。
完成して間もない首都高速の新宿ランプ斜路の脇で、ガスホルダーが2基稼働している様子がわかります。この当時は、新しい都市のライフラインである「地域冷暖房」の供給と、東京の発展を支えてきたエネルギー「ガス」の供給という2つの役目を担っていました。
その後、ガスの原料が天然ガスへ切り替えが進み、パイプラインに余力ができてくると、ガスホルダーがなくても安定供給ができるようになっていきます。そのため、昭和61年(1986年)から、淀橋供給所では、ガスホルダーの解体を開始します。そして、平成3年(1991年)までに最後のガスホルダーが完全に撤去され、淀橋供給所は、明治から平成まで80余年に渡り担い続けてきた、ガスの供給所としての役目を終えました。
ガスホルダーがあった新宿ランプ斜路のすぐ脇には、新宿地域冷暖房センター建屋の低層棟があり、その背後に新宿パークタワー高層棟が建っています。隔世の感がありますね。
さて話を、本題の「ガス灯」に戻しましょう。
東京瓦斯淀橋供給所の敷地内には、明治43年(1910年)の開設当時からガス灯が建てられていましたが、そのうちの1基が現存しているのです。
昭和40年代に、ガスミュージアムの館庭に移築され、今でも現役としてあたたかな炎でお客様をお迎えしています。
この淀橋のガス灯は、明治後期の代表的な形状をした脚柱で、縦溝のラインと曲線を生かした優美なデザインのガス灯です。
その歴史を継承して、新宿パークタワーにもガス灯が採用されています。
新宿パークタワーは、代々木第一体育館や東京都庁等の設計で有名な日本を代表する建築家、丹下健三が設計を手掛けています。雁行した三角形が連続するトライアングルシェイプが随所にデザインされ、凛とした空気感がある建築です。
ガス灯も、一見するとガス灯とは気が付かないような、とてもユニークで洗練されたデザインで作られています。
薄暮の頃になると、ビル北側のメインアプローチの噴水広場を囲む列柱に、静かにガス灯がともり、ビルを訪れる人をやさしく包みこみます。
ガス灯の形は、円柱型のガラスカバーのなかに、2灯のマントルが設置されており、噴水広場の周りに計16基のガス灯が設置されています。
壁を照らすガス灯の光は放射状に広がり、まるで三角形の光が左右に向かい合っているようです。建物のデザインに用いられているトライアングルシェイプの意匠ともよく調和していますね。
新宿パークタワーには、噴水広場以外にも、敷地東側の首都高速の斜路の脇に街灯型のガス灯が6基立っています。こちらのガス灯も、トライアングルシェイプを用いたモダンでシャープな雰囲気のガス灯です。
新宿パークタワーのガス灯を眺めたら、ぜひビルの中で豊かな時を過ごしてください。ビルの内部も、見どころ満載ですよ。
3階から7階には、快適な住まいづくりとインテリアの総合情報センター「リビングデザインセンターOZONE(オゾン)」があります。上質なデザインのテナントが集まるOZONEには、世界中から厳選した家具や照明、インテリア・アイテムなどを取り揃えるホームファニシングショップ「THE CONRAN SHOP新宿本店」も3-4階に入っています。
9階から37階はオフィスで、ビル上層階の39階より上にはラグジュアリーホテル「パーク ハイアット 東京」があります。新宿副都心のビル群をはじめ東京を360度一望できる素晴らしい眺望のなか、至福の時を過ごせるレストランやバー、ラウンジは、まるで天空の世界に迷い込んだようですよ。
竣工当時、上層部にホテルが入る超高層ビルは東京では例がなく、下層部のリビングデザインセンターOZONEとともに、新たな東京の文化スポットとして注目を集めました。
(新宿パークタワーWEB https://www.shinjukuparktower.com/ )
こちらが新宿パークタワーのアトリウムです。新宿中央公園の緑が一望できる開放的な空間です。正面左手にみえる長いエスカレーターを上がるとリビングデザインセンターOZONEです。
ビル1階の新宿中央公園側には、パークハイアット東京のデリカテッセンもあります。
イートインコーナーは噴水広場に面していますので、夕暮れ時、公園の緑を遠景に、ガス灯がともるのを眺めながら、ちょっとブレイクするのもいいですね。
ところで、地名の「淀橋」ってどこ?と思われる方も多くいらっしゃると思います。
「淀橋」は、西新宿一帯の古い地名で、新青梅街道の神田川にかかる『淀橋』が地名の由来です。前掲の昭和22年7月発行『新宿区詳細図』では、淀橋浄水場の北西に約500m、東京瓦斯淀橋供給所(現新宿パークタワー)からだと1㎞ほどのところに位置しています。
淀橋付近拡大図(図中の左上の区界と青梅街道の交差部が淀橋)
こちらは明治44年頃の淀橋の様子。
現在の西新宿一帯は、明治22年(1889年)の町村制施行で、「淀橋町」となり、町名として正式に淀橋の呼称になります。その後、昭和7年(1932年)「淀橋区」となり、昭和22年(1947年)に四谷区・牛込区・淀橋区が合併して新宿区が誕生したときに、淀橋の地名はなくなりました。
淀橋が架かる新青梅街道の道路幅は拡幅され、石の欄干の橋に架け替えられていますが、今でも淀橋は健在です。開発が進む、西新宿の超高層ビル群から見下ろされるように、ひっそりとたたずんでいます。
さて、今回は、明治から現代へと、東京の街の発展に深くかかわってきた、新宿淀橋の歴史にも触れながら、モダンでユニークなデザインの新宿パークタワーのガス灯をご紹介しました。
冬になると、新宿パークタワーの噴水広場には、クリスマスイルミネーションが飾られます。まばゆいばかりのイルミネーションと調和して、ほのかにゆらぐガス灯も、とても綺麗ですよ。
四季折々の移ろいを感じながら、ぜひ足を運んでみてください。
担当: Y.A.
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